第2話「新彊ウイグルの旅 5頭の羊の物語」

2003〜4年頃に中国新彊ウイグル自治区から日本の大阪府立大学へ留学に来ていたアイニ君という方をお世話していました。これがきっかけとなって、彼の故郷、ウイグルの首都ウルムチを何度も旅する事となりました。今回は冬に訪れた話を中心に。

極寒のウイグル、ヒゲが凍ります。

最初に訪れた時は、真冬。極寒でした。この時は最低気温はマイナス27度にもなりました。(最低気温のレコードはマイナス47度!)上海から飛び立った飛行機が2時間以上遅れてウルムチの空港へ着いた時、夜中の空港にチリのようなものが舞っていました。空気中の水分が凍ってできるスノーダストです。僕の口ひげはすぐに凍り付き、なんだか目の調子もぱりぱりして変です。僕は北海道に住んだ事もあるのですが、この寒さは別格で、肌が痛いんですね。そんな所なのに、街で昼間、小学生に会うと、手袋をしていなかったり、ずいぶん薄着だったりで「寒くないんやろか?」と心配してしまいます。

馬に乗っている写真は、ウルムチから100キロほどの天池(テンチ)という湖ですが、この時期、厚い氷に覆われ、その上で馬に乗ったり、スケートができます。僕はオートバイ用の防寒ジャケットを着ていましたが、それでも寒かった。でも馬の背中はとっても暖かい、湯たんぽに跨がっているようです。

ザクロを売っている写真とナンを売っている屋台の写真がありますが、これらはウルムチからさらに国内線で2時間ほど飛んだところにあるトルファンの様子です。ウルムチは雪が降りますが、トルファンには冬でも雪が降りません。(寒いけど)ザクロは有名で、このジュースがうまい!ザクロの果実をその場で絞った100%果汁のジュース。満足の一杯は2円でした。

ウイグル人はほとんど全員がイスラム教徒です。そして彼等の主食はナンです。ナンそのものに味はあまりないように思うのですが、ウイグル人はこのナンをびっくりするくらいたくさん食べます。いろいろな種類があり、僕にはそれらがどう違うのかほとんどわかりません。留学生のアイニ君は日本からウイグルへ一時帰国すると、このナンをかばん一杯に詰め込んで日本へ戻ってきます。時間が立つとまるで岩せんべいのように非常に固くなりますが、そうなったものは保存食になります。だからかばん一杯日本に持ってきて、ある間はこれを食べる訳です。

黙とう!5頭の羊の物語。

ところでイスラム教徒は豚を食べません。で、羊かヤギの肉を多く食べますが、幸い僕もヨメも羊は好きです。日本人にはにがてな人も多いとおもいます。

正月でもあったので、彼の実家の村、アイディンギュル(月の美しい村の意味)に出向き、親戚の家に招待されました。ここで湯でたての羊の肉を出してもらったんですが、山のような量です。半端じゃない。味は旨いのですが量が多すぎる!しかし「食べろ、食べろ」の声援に応えてなんとか腹一杯を通り越す所まで頑張りました。この料理は遠い日本から来た我々のために貴重な羊をツブシテくれたんだ、頑張ったぜ!とふらふらになりながらも達成感のようなものも感じながら、その家を出ると、「もう1軒行かなければ…」のアイニ君の声。「えっ?ここ一軒じゃなかったのか、しまった!頑張りすぎたじゃないか!」しかも、なんだか悪い予感がて、それはやはり適中。別の親戚の家でもまた新たな羊!しかも同じ量。目の前が真っ暗になりました。でもこの料理は日本から来た…との先ほどの理由を自分に言い聞かせ、再び頑張ってしまったのです。(こんな気持ち、わかりますか?)なんとか無理矢理お腹に隙間をつくってそこに収めました。この時点でもうまともに動けません。で、家から出ると、アイニ君が「実はもう1軒ね、行かなければ…」見れば彼の顔も暗い。「先に言うといてくれ、先に」

結局この後、さらに3軒の親戚を回りました。結果、僕らが日本から来たために5頭の羊がおだぶつになりました。なんか申し訳ないなあ。しかし後にも先にも僕はこのときほど物を食べたことはありません。まさに大食い芸人の気分。息ができないし、前にかがめないし。永遠に空腹感を感じないのでは?とさへ思いました。(今はきちんとお腹が減ります)5頭の羊と満腹の限界、旅の思い出です。

心のこもったおもてなし、これを受けるには相当の体力と強靱な胃腸が必要なようです。

でもみなさん、その節はありがとうございました。

 

今回はここでおしまい。第3話へ続く

 

有限会社アトムグラフィックス  ホームページはこちらへ

take five minutes トップへもどる
いわゆるシルクロードと呼ばれる地域、新彊ウイグル自治区は、日本から7000キロの彼方。大阪からは上海か北京でトランジット、そこから中国国内便で首都ウルムチまで5時間のフライトが必要です。ご縁があって、何度も訪れる事となりました。第二の故郷とさへ思えるほど愛しています。
ウルムチ
ウイグル自治区イリ・カザフ自治州ジャンガル盆地の果てしない草原に立つかあちゃん 今回掲載の写真はすべて銀塩カメラ Canon F-1によるポジフィルムによる撮影です。ちょっとシャープネスにかけるのはポジフィルムのスキャンデータのため。